[Dantrolene sodium may not be effective in the treatment of status epileptics].

(臨床神経 2012;52:261) 平成 23 年 10 月 20 日 拝啓 臨床神経学 2011;51:777-780 に掲載された「ダントロレ ンの有用性が示唆されたけいれん重積発作の 1例」を興味深 く拝読しました.統合失調症の患者が間代性けいれんを呈し, ダントロレンの投与でけいれん発作が消失したことより,ダ ントロレンがけいれん発作に有効な可能性が示唆されたとい う要旨です.本論文の考察では,悪性症候群とけいれん発作の 合併はまれであり,重積発作までいたったものは 4例のみで あること,および,けいれん発作がダントロレンの投与直後か ら消失したことから,悪性症候群の病態の関与は否定的と考 察されています.著者らは当初,筋強剛や著明な発汗,頻拍, CPK高値より,悪性症候群の可能性を考慮して,ダントロレ ンやブロモクリプチンを投与しましたが,最終的に,意識障 害,CPK上昇,発汗過多は,すべて,けいれんの重積による ものと判断しています.しかし,本文の臨床経過の記載やFig. 1 をみるかぎり,けいれん重積発作に対するダントロレンの 有効性を強調することは,些か問題があると考えます.けいれ ん重積発作に対するダントロレンの有効性は本当でしょう か? 本例は,1)統合失調症の患者で抗精神病薬を多量に服用し ていた可能性がある.2)四肢に筋強剛があるので錐体外路症 状が存在する.3)発熱,頻拍,著明な発汗など,自律神経症 状も存在する.4)けいれんに対して,ジアゼパム,ヒダント イン,フェノバルビタールが無効であった.以上の点から,本 例の病態の主体は,けいれん重積発作というより,むしろ,悪 性症候群の病態であると考えます.私は以前, 「多発神経炎に 併発した悪性症候群の 1例」を経験し,1998 年の臨床神経学 に投稿しましたが,中枢におけるドパミン作動神経系の機能 抑制とノルアドレナリン系の興奮あるいはグルタミン酸など 興奮性アミノ酸の活性化が,悪性症候群の発現機序であり,悪 性症候群が重篤になれば,けいれん発作を合併することは決 してまれではありません.本例では,day 2 から開始されたブ ロモクリプチンが悪性症候群の病態を徐々に改善した可能性 があると考えます. ダントロレンは悪性症候群や悪性高熱に有効です.とくに, 筋肉が病態の首座である悪性高熱では,ダントロレンは一次 的に有効ですが,悪性症候群ではブロモクリプチンによる中 枢の病態改善が一次的に重要であり,ダントロレンはCPK 高値による二次的な病態の改善に有用と考えられます.近年, ダントロレンの中枢作用に関する文献は散見されますが,ダ ントロレンの中枢作用としての臨床応用は未だ確立されてい ません.筋弛緩作用を呈するダントロレンの通常量では,脳 内で効果を示すには濃度が不十分であり,現時点では筋肉に 対するリアノジン受容体の阻害作用を介する効果を期待し て,ダントロレンを使用することが肝要と考えます.悪性症候 群の病態とダントロレンの効果に関して,改めて認識するこ とが大切と思い,投稿しました. 敬具